異次元の超高速計算機「量子コンピュータ」の本当の実力

2022/08/19

    今年5月、米国のホワイトハウスバイデン大統領は、国家安全保障に関する一連の「メモランダム通達)」を主要各省・下部組織に向けて発令した。
     
      通達内容として「量子コンピュータ」における量子情報の開発で、アメリカの立ち位置を国際社会の中で位置づけるとともに、極めて特殊な次世代計算機が暗号システムにもたらす危険性の緩和を目的とした発令だった。
       
        そもそも「量子コンピュータ」とは、ミクロ世界を解明していく物理学「量子力学」を計算の基本原理として応用した「異次元の超高速計算機」のことだ。
        この発見は、1980年代に物理学者リチャード・ファイマンが発案しており、いまも安全保障対策を左右するキーであることには代わりがない。
        様々な物質の構成要素である「原子」や「電子」のようなミクロの存在は一般に「量子」と呼ばれ、 その中でも、一つのモノ(量子)が同時にいくつもの異なる状態を作り出させる「量子重ね合わせ」と呼ばれる現象があり、その分身が超高速の計算能力引き出しているのだ。
        「量子重ね合わせ」による計算能力は、 グーグルが2019年に発表した有名な「量子超越性」の実験では、当時世界最速に認定されたIBM製のスパコンで2万年かかる計算を、グーグルが開発した超伝導方式の量子コンピュータはわずか3分20秒で終わらせる事ができた結果がでたのだ。
         
          また、2020年には、中国科学技術大学も同様の実験を実施。
          当時の世界最速スパコンに認定された日本の「富岳」で6億年かかる計算を、同大が開発した光方式の量子コンピュータが(前年のグーグルと同じく)3分20秒で終わらせることができたのだ。
          しかし、このような結果は、特殊な用途に限定された実験装置に過ぎなかった。
          つまり、超高速計算が可能であることを証明するための、いわば「計算のための計算」であったのだ。
          ところが、これら量子超越性の実験結果が世界各国のマスメディアを通じて華々しく報じられたため、大学やスタートアップ企業を中心に世界的な量子コンピュータの開発ブームが巻き起こった。
           
            例えば、2020年以降の新型コロナ・パンデミックに伴う世界的な超金融緩和と相まって、米国のニューヨーク証券取引所やナスダック市場では、スタートアップ企業に向けて「上場1件あたり数億ドル(数百億円)」という巨額のお金が注ぎ込まれた。
             
              また、米国、EU(欧州連合)、日本など主要先進国・地域の政府は、将来的に自国の経済成長や安全保障を左右すると見られる量子コンピュータや量子情報技術の研究開発に「科学技術振興政策」各々数百億円から数千億円もの巨額予算を投入した。 さらに、中国政府は1兆円以上もの予算を割いて「国家量子情報科学研究所」の建設に着手していた。
               
                こうした「21世紀の産業革命」を他国に先駆けて成し遂げた国は、産業競争面での強力なアドバンテージを得ていく。
                そのためのツールである量子コンピュータは、世界各国でいわゆる「経済安全保障」の最優先課題となっているのだ。

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