試験当日、電車が動かないです。

2023/02/05

    「先生、電車が動かないです……」
    高校入試の朝。来日して9カ月の〝パルちゃん〟は、消え入りそうな声で先生に助けを求めていた。
    聞き取ることができない車内アナウンス。と「遅刻したら受験できない」というプレッシャーの絶望の淵にいたパルちゃんを支えてくれたのは、隣りあった乗客からもらった、言葉だった。
     
      1月26日の朝、都立府中西高校の校門前で、ピッチフォード理絵さん(61歳)は、教え子たちの到着を待っていた。
      ピッチフォードさんは、東京都福生市などで外国にルーツがある子どもの学習や進学を支援しているNPO法人「青少年自立援助センター」の「YSCグローバル・スクール」で、進路相談などに乗ってきたからだ。
       
        この日は、担当する生徒のうち15人が府中西高校を受験することになっている。
         
          万が一、トラブルに巻き込まれた場合「自分で受験する学校に連絡を入れる」こともハードルになってしまうと考え、試験会場近くで待機していたピッチフォードさん。
           
            そんな中、スマートフォンに着信が入り、消え入りそうな声で「先生、電車が動かないです……」と震えていた。
             
              ピッチフォード理絵さん(61歳)は「パルちゃんだ」と瞬時に感じたそう。
               
                ネパールから来日して9カ月のパルさんは、いつも明るく、おしゃべりが大好き。
                そんな〝パルちゃん〟の様子は、明らかにいつもと違っていたのだ。
                都立高校では、同校を含めて8校に「在京外国人生徒対象入試」の制度がある。
                応募資格を満たした来日3年以内の外国籍の生徒は、作文と面接で受験が可能だ。
                日本語と英語のどちらかを選択することができるが、パルさんは苦手な日本語を選んだ。
                試験対象となる作文は600字で思いを綴っていく。
                最初は2文、3文しか書けなかったところから文をまとめる練習をし、100枚は練習してきたパルさん。
                パルさんは、受験生の中でも特に熱心であり、添削して返された作文は、書き直して翌朝一番で先生に「見てください」とお願いしているほど。
                 
                  もしも、外国人生徒対象入試で不合格になった場合は、日本人も受ける「一般入試」で受験する事になってしまう。
                  そんな入試の作文テーマは、「将来の夢」だった。
                  パルさんは「日本で、モデルになりたい」とつづりました。
                  おしゃれが大好きなパルさんの小さい頃からの夢を、これから日本で叶えるつもりだ。
                   
                    「そのために、高校では日本語をたくさん勉強したい」
                     
                      もし、あの電車のトラブルのときにもっと日本語ができたら、本当は話したいことがたくさんあった。
                      あの日、声を掛けてくれた乗客に伝えたかったことも。
                       
                        そんな思いは届き、2月に念願だった府中西高校に無事合格。
                         
                          慣れない漢字に頭を抱えながらも、「一生懸命がんばりたいです」

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