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月3万円の年金が底をつき… 生活保護の先にある“最終手段”
2023/09/25
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2023年4月26日の松山地裁では、窃盗の罪に問われ、被告として証言台に立ったのは62歳の男性だった。
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起訴状などによると、男性は住所不定の無職。上下は薄い灰色のスウェット姿。頭髪には白いものが目立つ。
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内容を掻い摘むと、空腹に耐えかね盗みを働いた男性が司法の裁きを受けていたのだ。
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「パンを盗もうとしてコンビニに入店したのか?」
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2か月に一度受給する6万円の年金が唯一の収入源で、これまでにも数回、万引きに手を染めた過去がある。
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「当時、所持金は数十円しかなかったが、なぜ入店したのか?」
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少し猫背気味で正面を見据えながら、男性は検察官からの質問に答えた。
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「お腹が空いていて、パンの陳列棚を通り掛かったとき、手に取ってしまった」
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裁判で認定された事実などを踏まえ、事件を振り返っていく。
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2023年3月7日の午前9時ごろ、愛媛県松山市内のコンビニエンスストア。
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パンの陳列棚の周辺を歩き回る男性を不審に思った店員が声を掛け、手さげ袋の中を確認したことで、窃盗が発覚した。
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盗んだのは販売価格140円のカレーパン1個だった。
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冒頭陳述などによると、男性は2022年末まで、香川の実家で義母とふたりで暮らしていたが、嫌気がさして家出したという。
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そして、2023年2月、年金が底を尽く翌3月、空腹を満たす目的でコンビニに侵入、パン1個を盗み、現行犯逮捕された。
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続いて、弁護士からの質問が行われる。
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「仕事が無く、カネも無くなり、万引きに及んだ。窃盗を繰り返しているようだが、万引きを軽く見ていないか?」
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「いいえ、ついやってしまったが、軽くは見ていない」
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「年金は2か月に1度、6万円程度だが、暮らしていけるのか?」
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「苦しいが、今後は頑張る」
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「判決に執行猶予が付いた場合、社会に戻ることになるが、今後どのようにして万引きしないように努めるのか」
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「仕事を探すこと、それも無理ならば生活保護も検討したい」
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「更生緊急保護を受けることは考えているか」
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「…お金が掛からないのであれば」
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男性の担当弁護士も、万引きなど「小さな犯罪」を繰り返してしまう人には、ある傾向が見られると話す。
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「話し方や受け答えに違和感を覚えて、医師の診断を仰いだところ、発達障がいだと判明するケースはとても多い。他人とのコミュニケーションがうまく取れずに仕事を続けられず、困窮して犯罪に走ってしまう理由は障がいの影響だったのだと、逮捕されて初めて明らかになる」
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しかし、それが裁判で考慮されることは無いという。
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「発達障がいは、心神耗弱や心身喪失のように明文化されたものではないので、減刑の理由には一切ならない。むしろ、社会復帰後の支援などを主張する必要がある」
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担当弁護士に、求刑通りだった罰金30万円の判決についての受け止めを聞いてみた。
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「今回の判決は、いわゆる『満(みつ)るまで算入』と呼ばれるもので、身柄の拘束日数と引き換えに罰金の支払いを終えたとするもの。つまり判決の時点で刑を終えたことになる。実情を鑑みた判決だったのではないか」
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男性の置かれた状況などを考慮した上で、社会復帰を見据えた場合に、今回の判決は、最適な着地点を探った結果であるといえるのかもしれない。
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パンを万引きした男性は、他人とのコミュニケーションが苦手な“特性”が災いし、仕事を続けられず困窮に陥った末、犯罪に手を染めてしまった。
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この「連鎖」から抜け出すことが難しい実情と、我々はどのように向き合っていけば良いのだろうか。
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事件を通じ、多くの被告人と向き合ってきた男性の弁護士は、以下のように述べている。
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「例えば他人とのコミュニケーションなど、程度の差はあれ、誰にでも苦手なことはあるだろう。見方を変えれば、それは、我々全員が犯罪の『たね』を持っているともいえる。ふとした拍子で『当事者』になってしまう可能性がある。とても大変なことだが…」
少し思案し、こう締めくくった。
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「お互いの特性を受け止め合う。優しさを持つ。それが、お互いの成長に繋がり、社会の成熟に繋がる」
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しかし、実際はそんなに甘くないのが現実だ。
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このような「見えない障害」とは、どう向き合えばいいのか。
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今後の検討が必要である。
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